ミュージカルの作詞作曲者Stephen Sondheimが亡くなった。言葉の魔術師、PANORAMAの看板文字を見てAMERICANにアナグラムした逸話を知って私の中で神格化。20代に『ウエストサイド物語』の歌詞をある劇団研究生公演用に全曲訳させてもらったことがあるが、(元詞を見ては)常に心躍るアルバイトだった。そこでお目に掛かったのがソンドハイム氏の歌詞だった。
ミュージカルInto the Woods『イントゥ・ザ・ウッズ』(1987年ブロードウエイ初演)は伝統的な童話の主人公(今はout of the woodsで安泰である)に、あのときこうだったらという苦労をさせるため再び苦労の”森”に入ってもらうという試みの、知的で人間味溢れる示唆富み(?)のお話。その中でシンデレラが宮廷の階段を駆け下りる途中、王子に捕まるべきか、でも捕まって自分が彼の思うような人間でなかったらどうなるか、そもそも一体自分はどんな人間なのか、それがわからぬまま捕まってどうなるものかと、これまで抱えたことのない自己喪失感に襲われる場面で唄うのがOn the Steps of the Palace。このミュージカルの特質のひとつ。その一節。
And what if you are
What a prince would envision
Although how can you know
Who you are till you know
What you want,
Which you don’t? …
もしも自分が
ある王子が思い描いた人間だったら
ただ 自分でわからないでしょう
自分が誰かなんて 自分が
何が欲しいかを知るまでは
でもそれを知らない私・・・
シンデレラの意識の流れに観客が合流し、ソンドハイムの”人間教育”がここでも起こる。最後は靴を残し、決定をプリンスに任せようと決心。晴れ晴れと宮廷をヒール片足で逃げ去る。この歌の映画版は