映画『知りすぎていた男』の制作中に監督アルフレッド・ヒッチコックが音楽担当のバーナード・ハーマン(ヒッチコックの諸作品、ハリーハウゼンの代表作数編、『タクシードライバー』など多くの映画音楽を手がけた)に助言を求めている。(ハーマンは寝ているのではなく、目を半ば閉じてアドバイスを与えていると思われる) “Movie Nostalgia”より
昨年、He is a keeper.(彼は大事にしたい人・キープすべき人だよ)という意味の表現に関する質問があった。父が娘のボーイフレンドを評して言う言葉だ(23年夏号・ダイアログ14 Having a Heart-to-Heart Talk)。ご質問の主旨は、keep する対象が彼であり、keepという行為をする人(動作主)は彼ではなくて娘だから、He is a keeper.ではなく、She is a keeper (of him?).では? というもので、まさに正鵠を射ている。
英語の-erはagent(動作主)を作る働きがあり(比較級も作れるが)、batter、pitcher、catcher、runner、swimmer、bartender、driver、influencerなど例に事欠くことはない。
こう並べてみると、やはりHe’s a keeper.は理屈に合わない-er使用だと考えるしかない(ただ意味はこれで通るのだから面妖だ)。
回答を、That’s a good question!(本当にそうなので)で始めたが、以来、このfaultyな造語の例が他にないかと思いつつ日々を送ってきたところ、今日、20年くらい前に買った古本のコーヒーテーブルブックに、上の写真とキャプションを発見した次第。
動作主を表す接尾辞は他にもあって、例えば-antはお馴染みだ。assistant、servant、accountant、immigrant、participant、などなど、これまた例は少なくなさそう。なんと、rehabilitantまである。
イントロが長いので、now to the point。
☛ consultantはどうなんだろう? と上の写真とキャプションを見て気が付いた。
Hitchcock consults Herrmann.
ということだから、Hitchcockが動作主で、-antの理屈から行けばHitchcock = consultantだ。
ところがHerrmannこそconsultantである。実はこのプロダクションでの彼は音楽担当のdirectorだから、『鳥』の例をあげてみる。The Birdsは子供の歌が音楽と言えば言えなくはないが、あとは車や舟の音以外は、鳥の声と羽ばたきだらけで、それらはすべて電子的に作られたものだ。ヒッチコックはその音響部門の相談役にハーマンを起用している。役職名はSound Consultantである!
もう一度まとめると、ハーマンは相談や質問を受ける側、音響担当者は相談や質問を(consult)する側となる。で、やはり-antの保守的な造語ルールから言えば、音響班=consultantだが、どっこい、ここでも、ハーマン=consultantである。
例が見つかったので質問者の方に報告すると共に、皆さんも目を半眼にしていかがでしょう。富士の山ほどあるのかもしれず、大漁唄い込みのレコードも用意して、ご報告をお待ちする次第。