北北西3

その昔、ヒッチコックのインタビュー本や批評記事を読み初めて分かったことなのですが、ヒッチコック自身は『北北西に進路を取れ』の原題の由来について、戯曲『ハムレット』の名セリフにあったと述べています。とてつもない運命の中で狂気を装うハムレットは、義父の新王の手先としてやって来た学生時代の友人たちに、次の言葉を返します。

   ”I am but mad north-north-west. When the wind is southerly, I know a hawk from a handsaw.”
   「俺が狂うのは北北西のみ。風が南ならタカと子サギの区別は出来る」

 風向きや鳥たちには、(真実を探す)ハンターのイメージがあります。(左官業者の使う「コテとパレット」の意味にもとれるようですが)。とにかく怪しいセリフです。
 『北北西』の主人公は、身に覚えのない不可解な出来事に翻弄され、周囲からcrazyと思われながらcrazyのように振る舞って真実をつかもうとしますから、Hamletと共通点があります。そして彼に何とか頑張って真実をつかんでほしいと観客を応援団にしてしまうヒッチコック監督の演出は、映像や言語面も含め秀逸です。

 子供時代のぼくにとって、ヒッチコック映画のタイトル、そしてポスターは抜群のインパクトがあり、タイトルを挙げるだけで今でも心躍ります。『知りすぎていた男』『間違えられた男』『めまい』『裏窓』『サイコ』『ダイアルMを回せ』『見知らぬ乗客』『疑惑の影』『鳥』『泥棒成金』『汚名』『白い恐怖』『ロープ』。まったく中身が想像できなかった『レベッカ』。そしてこの『北北西に進路を取れ』などに惹かれ、原題の意味が分かり始めると、それだけで内容に興味が倍増し、ミステリードラマに欠かせない滑舌の良さに助けられて英語でもファンとなり、今でも見続けている次第。

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