覚え易い! 大統領たちのレトリック

何度目になるのか、映画JFKを見ました。オリバー・ストーン監督の大作で、ケネディー大統領暗殺の真相を探る男の物語。主役のケヴィン・コスナーは役者としてgood listenerであると言われますが、これは「ラジオ英会話」を聴いてくれているわけではなく、他の役者のセリフや動きに的確に反応する俳優を指します。彼は終幕までひたすら意見を聞き、情報を調べ、悩む抜くのですが、一転して最後の法廷シーンで、アメリカに残されているはずのjustice(正義)について一気に熱弁を振るう姿が印象的です。そこには米国の良心とされる名言がいくつも引用されていて、どこか学生の発表のような印象もあるけれど、勧善懲悪に弱い(I’m a sucker for poetic justice.)ぼくは、いつも感動して見終わります。

感動といえば、高校時代ケネディー大統領の就任演説を暗記したときに、心踊る箇所がいくつもありました。中でもあの有名な、

Ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country.(国があなたたちに何ができるかを問うな、あなたたちが国に何が出来るかを問え)

は素晴らしく、前半にある語を複数ヒックリ返して後半とするこの方法が大変覚え易いことに驚き、かつ何度も口に出してその”反転の興奮”を感じたものです。

これを、言葉をどう操って人を説得するかという学問である修辞学(レトリック)では「倒置反復法」antimetabole(アンティメタボリー)と呼びます。この方法は覚え易く、印象深く、分かり易い、つまりレトリックの目指すpersuasion(説得)にピタリです。次は、このケネディーの言葉に応えるかのようなオバマ大統領の言葉です。

You stood up for America, now America must stand up for you.(あなたたちはアメリカのために立ち上がった、今度はアメリカがあなたたちのために立ち上がらねばならない)

同じ米国大統領でHonest Abeというニックネームのあるリンカーン大統領で、次のように、結論に否定形を用いることでよく知られています。

Government of the people, by the people, for the people shall not perish from the earth.(人民の人民による人民の政治は地上から消滅するものではない)

また、彼の言葉とされる次の名言も否定形で終わっています。

You can fool some of the people all of the time, or all of the people some of the time, but you cannot fool all of the people all of the time.(一部の人を常に騙したり、全ての人を一時期騙すことができるが、全ての人を常に騙すことはできない)

最後にKOSブログとして気になるのが倒置反復法式の次の言葉です。

We don’t stop smiling because we grow old, we grow old because we stop smiling.

2 thoughts on “覚え易い! 大統領たちのレトリック

  1. “Government…the earth”について、2点コメントします。
    1. 「政治」はpoliticsと訳されることが多く、従って、govermentも「政治」としたのでは、「政治」に両義を混在させ、ひいてはLincolnの真意を外れることになります。私見によれば、shall not perishの対象物はthe Confederate Statesがperishさせようとするthe Unionであり、the Constitution of the USAであり、即ち、(the Unionの)運営制度です。
    2. 「消滅するものではない」という訳は不適切です。ここの節はresolve that government of…
    に続くものですから、resolve that…shall…との兼ね合い(=話者たるweの,第三者たるgovernment…に対する意思を示すshall)で、「決して消滅させてなるものか」(と決心する)とでもすべきもの、と考えます。
    拙著「”Government of the people, by the people, for the people,”とは何か?」(2013 近代文芸社)をご参照頂ければ幸いです。

    • 小林さん、コメントをありがとうございました。ご著書の情報も多謝です。それにしても1世紀半以上前に、こうした形のgovernmentがあったということは、素晴らしいことですね。

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